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<第2分冊 (VI-XII)>

図版VI
開いた扉

 本書の主たる目的は新たな芸術の幼少期を記録に残すことにある。この芸術は、やがて――その時代は近づいていると私たちは信じている――ブリテンの才能ある人々の尽力によって成熟の時代を迎えることになるだろう。
 これは、この芸術〔=写真術〕の幼年時代におけるたわいもない努力の一例にすぎないが、友人の中には、心優しく褒めそやしてくれる人もいた。
 日常的で身近な出来事の光景を表象の主題にすることについては、オランダ絵画に多くの先例を見出すことができる。画家というものは、しばしば、凡人がなにも気づかないところに眼を留めることがある。ふとした一条の陽の光、小径を横切るように伸びる影、老い衰えたオークの木、苔むした岩、こうしたものが、さまざまな思いや感情、そしてピクチャレスクな想像を次々と波が寄せるように呼び覚ますことがある。

図版VII
植物の葉

 ここまで私たちは読者諸氏に、離れた物の表象、すなわち〈カメラ・オブスクラ〉を使用することによって得られる表象をお目にかけてきた。しかしこの図版は、対象を実物大で表象している。これは以下のような、まったく違う、ずっと単純な製法によって実現されたものなのである。
 植物の葉や、それに類する薄くて繊細な物を、適度な感光性をあらかじめ与えておいた紙のうえに平らに伸ばして置く。そしてそれを上からガラスで覆い、ビスで締めてぴったり密着させる。
 この作業が終わってから、数分のあいだ日なたに置き、紙の露出している部分が暗い褐色やほとんど黒色に変化するまで待つ。次に、それを再び日陰に戻し、葉を取りのぞくと、その刻印、つまり画像が紙の上に残されるのが見出されるのである。この映像は、葉が半透明だと薄褐色の色みを帯び、不透明だと真っ白になる。
 植物の葉は、こうして暗い地のうえに白く表象され、とても愉快な画像を作り出すので、今後に予定している分冊のなかでたぶんいくつかの実例を加えていくことになろう。しかし、この図版は逆の方法で画像化した例、つまり白い地のうえに暗い色の画像が描かれている例を示している。それを写真の言葉で言い換えるなら、これは葉の《ポジ》映像であって、《ネガ》映像ではない、ということになる。この転換を起こすには、最初の工程を単にもう一度繰り返すだけでよい。この最初の工程は、上で説明したように、暗い色の紙のうえに白い映像を与える。それからこの紙を取り外し、定着液を薄く塗布して紙の感光性を消すことで映像を定着する。
 この工程が終わったら、紙を乾かし、それからそれを2枚目の感光紙のうえにぴったり密着するように押しつけながら重ね合わせ、それを日なたに置く。この第2の工程はいうまでもなく第1の工程の繰り返しにすぎない。これが終わると、第2の紙には最初のものを逆転した映像、つまり白い地のうえに暗い色の映像が写し取られるのである。

図版VIII
書斎の光景

 〈写真〉の発見によって触発された多くの奇抜な着想の1つに、次の、どちらかというと奇妙な実験、というか空想がある。私はそれを一度も実際に試したことはないし、私の以外の誰かが試したり企てたりしたという話も聞かないが、それでもそれは、もしきちんと手筈を整えれば必ず成功するはずのものだと私は思っている。
 太陽光線がプリズムによって屈折し衝立に投じられると、そこに、太陽光スペクトルという名で知られるとても美しい色の帯が形成される。
 実験者たちは、このスペクトルが一枚の感光紙のうえに投じられると、その紫側の末端で大きな効果が生じることに気がついた。真に注目すべきは、同様の効果が、紫の外、スペクトルの限界の外の、或る《不可視光線》によって生じるということである。そうした光線の存在は、それが及ぼすこの作用によってのみ私たちに開示される。
 さて、この不可視光線だけを間仕切りの壁や衝立に開いた穴から隣の部屋へと抜けるようにして他から切り離すとしよう。そうするとその隣の部屋は不可視光線で満たされることになろう(この場合《照らされる》とは表現できない)。穴の後に凸レンズを置けば、光線を全方向に散乱させることができる。もしその部屋に何人かの人がいたとしても、そのうちの誰も〔暗くて〕他の人の姿を見ることはない。だが、にもかかわらず、《カメラ》は、もしそれを誰かが立っている方向に向けるならば、その人の肖像を撮影し、その人が何をしたかを開示するであろう。
 というのも、すでに用いたことのある隠喩を使うなら、カメラの眼は、人間の眼が暗闇以外の何も見ないところを明瞭に見るからである。
 嗚呼! この空想は、現代のノヴェルやロマンスに効果的に取り入れるにはいささか凝り過ぎの感があるかもしれない。しかし想像してみてほしい、暗い寝室 darkened chamber の秘密が印画紙の証言によって開示されるのだ。なんと驚くべき《大団円》であろう。

図版Ⅸ
古い刊本の頁の写し facsimile

 〈筆者〉の図書室にあるブラックレターで書かれた書物。リチャード二世の法令集を収録しており、ノルマン仏語で書かれている。こうした〈写真術〉の利用法が古物蒐集家に大きな利便をもたらすことは間違いない。
 これは、密着焼付の方法で、実物大で複写された。